嫌がっているのに性的な行為を強いること。見たくないポルノの映像を見せること。同意していないのに性的な画像や動画を撮ること。そして、避妊に協力しないこと。内閣府の「男女間における暴力に関する調査」は、こうした行為をまとめて「性的強要」と呼び、暴力の一つとして数えています。殴る、蹴るといった目に見える暴力だけが暴力ではない、というのが、国の調査の立場です。
体の関係から始まった相手とのあいだでも、同じことは起こります。むしろ、恋人や夫婦のように関係の名前がはっきりしていないぶん、「どこまでが同意なのか」があいまいになりやすい関係だとも言えます。この記事では、内閣府が2024年3月に公表した令和5年度の調査結果と、2023年に変わった刑法の決まりをもとに、体の関係の相手とのあいだで線を引くために知っておきたいことを順に見ていきます。
交際相手から被害を受けた人は、女性の22.7%
令和5年度の調査は、全国の18歳から59歳までの男女5,000人を無作為に選んで行われ、2,950人が答えています。その中で、交際した経験のある人に交際相手からの暴力を受けたことがあるかを尋ねたところ、「ある」と答えたのは18.0%でした。女性では22.7%、男性では12.0%です。女性のおよそ4〜5人に1人が、付き合っていた相手から何らかの暴力を受けた経験を持っているということです。
| 調査の項目(令和5年度) | 全体 | 女性 | 男性 |
|---|---|---|---|
| 交際相手から被害を受けたことがある | 18.0% | 22.7% | 12.0% |
| そのうち命の危険を感じた | 18.6% | 23.3% | 7.2% |
| そのうち誰にも相談しなかった | 39.1% | 37.4% | 43.2% |
| 特定の相手からつきまとわれたことがある | 10.2% | 14.0% | 5.7% |
| 不同意性交等の被害にあったことがある | 4.7% | 8.1% | 0.7% |
被害を受けた人のうち18.6%は、命の危険を感じたことがあると答えています。女性では23.3%です。そして被害を受けた人の39.1%は、どこにも、誰にも相談していませんでした。男性では43.2%と、さらに高くなります。交際相手からの暴力は、外からは見えにくいまま続くことが多いのです。
被害を受けた人のうち、その相手と別れたのは49.9%でした。21.3%は「別れたいと思ったが、別れなかった」と答えています。同居したことのある人に限ると、77.8%が同居している期間に被害を受けていました。一緒に暮らすほど関係が深くなると、逃げ道はさらに狭くなります。体の関係の相手と、相手の家に泊まる、合鍵を渡す、といった形で生活が重なり始めたときは、関係の中で嫌なことを嫌だと言えているかを、一度立ち止まって考えてみる価値があります。
スマホを見る、行き先を聞く、も暴力の一つ
調査が数えている暴力は、体への暴行だけではありません。「心理的攻撃」として、人格を否定するような暴言のほかに、交友関係や行き先、電話やメールなどを細かく監視したり制限したりすること、長い期間無視することなどが例に挙げられています。相手のスマホの中身を見たがる、誰と会っていたのかをいちいち問いただす、返事が遅いと責め続ける。どれも、調査の物差しでは暴力の側に入る行為です。
体の関係の相手に、恋人のように行動を縛られる、という話は珍しくありません。関係の約束がはっきりしていないぶん、相手が「自分だけを見てほしい」と思い始めると、その気持ちが監視や束縛の形で表に出ることがあります。会う回数や連絡の頻度について二人で決めておくことは、こうした行き違いを防ぐことにもつながります。
結婚していても、4人に1人が被害を経験している
同じ調査で、結婚したことのある人に配偶者からの暴力を尋ねると、「ある」と答えた人は25.1%でした。女性では27.5%、男性では22.0%です。そのうち性的強要に限ると、女性で10.6%、男性で1.1%でした。関係に名前がつき、一緒に暮らしていても、暴力はなくならないということです。関係の名前で安心するのではなく、相手が自分の意思を言える関係かどうかを見るほうが、ずっと確かです。
「付き合っていない」関係にも、同じことが起こる
この調査が尋ねているのは「交際相手」からの暴力で、体だけの関係の相手がどこまで含まれているかは、調査の結果からは分かりません。ただ、関係の名前がないことは、暴力が起きない理由にはなりません。むしろ、恋人どうしなら当たり前に話し合うはずの「これは嫌だ」「今日はしたくない」という言葉が、体の関係の相手には言いにくいことがあります。
関係の中で立場の強さに差があるときは、なおさらです。相手のほうが年上で収入が多い、相手のほうが関係を終わらせることを恐れていない、相手に自分の秘密を知られている。こうした差があると、嫌なことを嫌だと言えば関係が終わってしまう、と考えて黙ってしまう人がいます。体の関係から始まった二人は、関係が対等であることを、言葉で確かめる機会がそもそも少ないのです。
だからこそ、自分が相手に何かを強いていないかを、こちらから確かめる意味があります。相手が断りにくい立場にいるかもしれない、と一度考えるだけで、誘い方も、断られたときの受け止め方も変わってきます。
不同意性交等の相手、いちばん多いのは交際相手と元交際相手
同じ調査で、不同意性交等の被害にあったことがあると答えたのは全体の4.7%、女性では8.1%でした。被害にあった人に、相手が誰だったかを複数回答で尋ねると、いちばん多かったのは「交際相手」と「元交際相手」で、どちらも16.4%です。「職場・アルバイト先の関係者」が10.0%、「まったく知らない人」が10.0%、「SNSなどインターネット上で知り合った人」が7.9%と続きます。
見知らぬ人に夜道で襲われる、という姿を思い浮かべがちですが、数字が示しているのは、被害の多くが知っている相手、それも付き合っていた相手や付き合っている相手から起きているということです。ネットで知り合った相手からの被害も、決して少なくありません。配偶者からの被害も8.6%、元配偶者からの被害も7.9%あり、関係が長く続いた相手であっても例外ではないことが分かります。出会い方がどうであれ、知り合ったあとの関係の中で起きることのほうが、ずっと多いのです。
被害にあった時期は、20代が約4割でいちばん多く、18歳と19歳、中学卒業から17歳までがそれぞれ約2割でした。若い年代ほど、関係の中で「嫌だ」と言うことに慣れていないという面もあるでしょう。年齢の線については、相手が18歳未満かもしれないときの記事で詳しく扱っています。
2023年7月から、刑法の考え方が変わった
2023年7月13日に、性犯罪に関する刑法の改正が施行されました。それまでの「強制性交等罪」は「不同意性交等罪」に改められ、相手が「同意しない意思」を持ったり、表したり、貫いたりすることが難しい状態にさせて、あるいはそうした状態にあることに乗じて性交などをした場合に処罰される、という考え方になりました。
どんな状態がそれにあたるのかは、条文の中で具体的に並べられています。暴行や脅迫を受けている場合のほか、お酒や薬の影響があるとき、眠っているときや意識がはっきりしないとき、突然のことで考えたり判断したりする時間がないとき、恐怖や驚きで体が動かないとき、相手との経済的・社会的な立場の差によって断れば不利益を受けると心配しているとき、などです。
この中で、体の関係の相手とのあいだで特に気をつけたいのが、お酒と立場の差です。飲んだ夜に相手が「いいよ」と言ったとしても、その言葉が判断できる状態で出たものかどうかは別の話です。そして、相手が自分にお金や仕事の面で頼っているときは、断ればその関係を失うと考えて、本当は嫌でも黙ってしまうことがあります。法律は、こうした「断れない状態」で行われた性交を、同意のあるものとは見なさなくなったのです。
改正された条文には、「婚姻関係の有無にかかわらず」という言葉も入りました。夫婦のあいだでも、同意のない性交は罪になりうるということを、法律がはっきり書いたのです。同じ改正で、性交に同意できる年齢の線も13歳から16歳に引き上げられました。関係の名前があってもなくても、相手が誰であっても、問われるのはその場の同意だということです。以前に何度も関係を持った相手でも、それは今日の同意の代わりにはなりません。
お酒の席で会うときの段取り
体の関係の相手と会うとき、食事やお酒の席から始まることはよくあります。飲むこと自体が悪いわけではありませんが、条文がお酒の影響をはっきり挙げている以上、段取りで気をつけられることはしておきたいところです。
一つは、その日に体の関係になるかどうかを、飲む前の、お互いに頭のはっきりしている時間に話しておくことです。もう一つは、相手が明らかに酔っているときは、その日はそこで終わりにすることです。足元がふらつく、話がかみ合わない、眠そうにしている。そうした様子が見えたら、相手を家まで送るか、帰りの手段を一緒に確かめて別れるのが正しい判断です。相手がどれだけ乗り気に見えても、酔った夜の「いいよ」を頼りにしないことが、自分を守ることにもなります。
反対に、自分が飲みすぎたと感じたときは、その日は誘いを断って帰っていいのです。体の関係の相手だからといって、その夜に応じなければならない理由はありません。
撮影と避妊も、同意の話
冒頭で触れたとおり、内閣府の調査は、同意していないのに性的な画像や動画を撮ることや、避妊に協力しないことも「性的強要」に含めています。体の関係の相手とのあいだで、ここはとくに見落とされやすいところです。
撮影については、同じ2023年7月から「性的姿態等撮影罪」が新しく設けられ、相手の同意なく性的な姿を撮ることそのものが犯罪になりました。その場で相手が笑って受け流したとしても、本当に同意していたかどうかは分かりません。撮った画像が残ること自体が、相手にとってはずっと続く不安になります。撮影の決まりについては、セフレとの撮影と写真の記事にまとめています。
避妊も同じです。相手が避妊を求めているのに応じない、途中で外す、といった行為は、調査の上では性的な暴力の一つに数えられています。妊娠や性感染症の不安を負うのは、相手の体です。避妊の方法は、どちらか一方が決めるのではなく、関係を持つ前に二人で話して決めておくものです。
同意は、毎回、その場で確かめる
同意について大切なのは、一度「いいよ」と言われたら、ずっと有効だと考えないことです。前回は良かったことが、今日は嫌なこともあります。始める前は良くても、途中で嫌になることもあります。そのたびに相手がやめたいと言える空気があるかどうかが、同意のある関係とそうでない関係を分けます。
確かめ方は難しくありません。「これは大丈夫?」「やめたくなったら言ってね」と、言葉で一言聞くこと。相手の返事があいまいだったり、黙ってしまったりしたら、それを「いいよ」とは受け取らないこと。断られたときに不機嫌になったり、理由を問い詰めたりしないこと。体の関係だからこそ、この当たり前のやり取りが、関係を長く続ける土台になります。
相手に断られたときの受け止め方も、関係の質を決めます。「今日はやめておく」と言われたら、理由を聞き出そうとせず、「分かった、また今度ね」と返すだけで十分です。断られたあとに連絡が冷たくなる、次の約束をちらつかせて考え直させようとする、といった反応は、相手に「断ると関係が悪くなる」と教えることになります。それが続けば、相手は次から本当は嫌でも断れなくなります。断られても関係は変わらない、と相手が信じられることが、同意のある関係のいちばんの土台です。
反対に、自分が嫌なことをされそうになったときは、はっきり断っていいのです。関係が終わることを恐れて黙るより、嫌だと伝えて、それでも続けようとする相手なら、その関係は続ける価値がありません。
別れたあとに、つきまといが起きることがある
内閣府の調査で、特定の相手から執拗につきまとわれた経験があると答えた人は全体の10.2%、女性では14.0%でした。その相手として最も多かったのは「元交際相手」で、23.9%です。被害を受けた人の27.9%は、命の危険を感じたと答えています。
体の関係を終わらせるときも、相手が納得しないまま連絡を絶つと、こうした行動につながることがあります。終わらせ方の段取りは関係の終わらせ方の記事に、家や最寄りの駅を相手に知られないための工夫は近くの相手を探す前にの記事に書いています。相手の行動に不安を感じたら、一人で抱えず、早めに警察に相談してください。
相手を選ぶ前に、年齢と身元が確かめられる場所で
知り合う場所を選ぶときは、相手の年齢が確かめられていること、困ったときに運営に報告できることを、最初の条件にしておくと安心です。リピアイとスグラブは、LINEで友だちに追加したあと、身分証で18歳以上であることを確かめてから使う仕組みです。プロフィールや届いた文章を読むのは無料で、こちらから送るときに1回30PTを使います。登録すると130PT(1,300円分)が付くので、会う前のやり取りで相手の考え方を確かめる時間が取れます。
相談しない理由の、いちばんは「恥ずかしい」
不同意性交等の被害にあった人のうち、55.7%はどこにも相談していませんでした。相談しなかった人や、相談までに5年以上かかった人にその理由を尋ねると、最も多かったのは「恥ずかしくてだれにも言えなかった」の45.7%です。「相談してもむだだと思った」が31.5%、「自分さえがまんすれば、なんとかこのままやっていけると思った」が28.3%と続きます。
体の関係の相手とのあいだで起きたことは、なおさら人に話しにくいものです。関係そのものを人に言っていないこともあるでしょう。それでも、専門の窓口は、関係の名前や経緯を問わずに話を聞いてくれます。性犯罪や性暴力の被害は、全国共通の短縮番号「#8891」で、最寄りのワンストップ支援センターにつながります。警察の性犯罪の相談窓口は「#8103」、配偶者などからの暴力の相談窓口(DV相談ナビ)は「#8008」です。名前を言わずに相談できる窓口もあります。
相談した先は、友人が3割、警察は1.4%
被害を誰かに相談した人に、その相手を複数回答で尋ねると、いちばん多かったのは「友人・知人」の29.3%で、「家族や親戚」が10.0%でした。警察に連絡・相談した人は1.4%にとどまり、ワンストップ支援センターや配偶者暴力相談支援センターに相談した人は、この調査の回答の中には出てきませんでした。専門の窓口があっても、そこまでたどり着く人は、ごく一部だということです。
相談までにかかった期間を見ると、「4日から1か月未満」が29.1%、「翌日から3日」が21.8%でした。一方で、「10年以上」たってから相談した人も20.0%います。話せるようになるまでに、長い時間がかかる人が少なくないのです。
「被害だと思わなかった」人もいる
相談しなかった理由の中には、「恥ずかしい」「むだだと思った」のほかに、気になる答えがいくつか並んでいます。「相手の行為が理解できず被害を受けたと思わなかったから」が16.3%、「自分にも悪いところがあると思ったから」が14.1%、「相手の行為は愛情表現だと思ったから」が8.7%でした。
体の関係の相手とのあいだで起きたことを、自分のほうが悪かった、相手は好きだからそうしたのだ、と受け止めてしまう人は少なくありません。けれど、法律や国の調査の物差しで見れば、それは同意のない行為であり、暴力です。「これはおかしいのではないか」と少しでも感じたら、その感覚を打ち消さずに、まず誰かに話してみてください。名前を言わずに相談できる窓口もあります。
線を引くのは、関係の名前ではなく、相手の意思
体の関係の相手との関係は、恋人や夫婦のように名前のついた関係ではありません。けれど、相手の意思を大切にしなければならないことは、どんな関係でも変わりません。法律も、国の調査も、関係の名前ではなく、その場で相手が本当に同意していたかどうかを見ています。
誘うときは相手が断れる余地を残し、断られたら引く。お酒が入った夜や、立場に差があるときほど慎重になる。撮影と避妊は、始める前に二人で決める。終わらせるときは、相手が納得できる形を探す。どれも特別なことではありませんが、これを当たり前にできる人とだけ関係を続けることが、自分の身を守ることにもつながります。
出典:内閣府男女共同参画局「男女間における暴力に関する調査報告書」(令和6年3月)・同「調査結果のポイント」(令和5年度調査:全国18〜59歳の男女5,000人、有効回収2,950人)。刑法の改正内容は2023年7月13日施行の改正刑法にもとづきます。個別の事情については、警察や専門の相談窓口、弁護士に相談してください。


